
3DCGデザイナーはテクニカルイラストレーターか?生成AIとの付き合い方を考える
3DCGと生成AIの関係については、ここ最近で一気に話題が増えたように感じていますが、テクニカルコミュニケーションの現場での向き合い方は、まだかなり慎重であるべきだと思っています。特に、メーカーから提供いただく図面や3D設計データは、企業の競争力そのものにつながる機密情報ですので、現時点ではそれらを生成AIに直接読ませることは絶対にしていません。
インターネット上では「CADデータをそのままAIに読ませてマニュアルを自動生成」といったイメージを連想する話も見かけますが、実務でそれを行うには、権利関係・情報漏えいリスク・社内ルールなど、クリアすべきハードルがあまりに多いと感じます。私たちとしては、「まず守るべきはクライアントの機密」であり、そのうえで活用できる範囲を慎重に探っていく、という順番を大切にしたいと考えています。
また、現在のワークフローでは、生成AIを使ってラフイメージを大量に生成するような運用も基本的には行っていません。もちろん、テスト的に使ってみる場面や、発想のきっかけとして参考にすることはありますが、「ラフはまずAIで何十枚も出して、その中から選ぶ」というスタイルが定着しているわけではありません。理由のひとつは、テクニカルコミュニケーションの3DCGには「それらしく見える」だけでは足りず、「きちんと正しい」ことが強く求められるからです。
たとえば、分解手順を説明する3DCGカットの場合、どのネジから外すべきか、手がどの方向から入るのか、実際の作業手順と矛盾していないか、といった点を丁寧に詰めていく必要があります。ここには、図面を読む力や製品構造への理解に加えて、「ユーザーがどこでつまずきやすいか」を想像する力が求められます。そう考えると、テクニカルコミュニケーターとしての3DCGデザイナーには、一般的なCGアーティストというより、どちらかと言えばテクニカルイラストレーター的な資質が必要になってくるように思います。

テクニカルイラストレーター的な仕事というのは、単に「きれいに描く」ことではなく、「複雑な情報を、必要な要素に整理して、理解しやすい順番で見せる」ことです。3DCGツールを使いながらも、最終的には「どの線を強調するか」「どこを省略するか」「どの向きから見せると一番わかりやすいか」といった判断が重要になります。生成AIがどれだけ進化しても、この「情報の編集」と「読者視点での取捨選択」の部分は、人間の役割として残り続けるのではないかと感じています。
では、生成AIにはどんな関わり方が考えられるのでしょうか。私たちが現時点で現実的だと捉えているのは、機密情報を含まない範囲での文章生成や、表現のバリエーション出しといった補助的な使い方です。たとえば、すでに社内で合意された手順書をもとに、「ユーザー向けの言い回し案をいくつか出してもらう」「注意喚起文や補足説明の候補を出してもらう」といった用途であれば、元の技術情報をそのままAIに渡さなくても運用しやすいケースがあるように感じています。
一方で、クローズドな社内環境に専用のモデルを構築し、図面や3Dデータを安全に扱えるような仕組みが整ってくれば、将来的にはテクニカルコミュニケーション分野での生成AI活用は大きく変わってくるかもしれません。たとえば、「設計者が更新した3Dデータから、差分を洗い出してマニュアルの改訂候補を一覧化する」「よくある問い合わせに応じて、関連する図版候補を提示する」など、人間の判断を前提にした半自動化は十分に考えられそうです。
コストの観点で言うと、生成AIを導入したからといって、すぐに制作費が半分になる、といった劇的な変化を期待するのは現実的ではないと思っています。むしろ、「限られた予算の中で、どこまで検討の幅を広げられるか」「どこまで人の手作業を、チェックや監修といった上流工程にシフトできるか」といった視点で考える方が、テクニカルコミュニケーションの性質には合っているように感じます。
3DCGデザイナーがテクニカルイラストレーター的な視点を持ちつつ、生成AIをあくまで補助ツールとして慎重に取り込んでいくことで、「正確さ」と「分かりやすさ」と「効率」を少しずつ両立させていくことはできるのではないか――そんな手応えを少しずつ感じ始めています。とはいえ、機密情報の扱い、クライアントの方針、社内の運用ルールなど、考えるべき要素はまだまだ多く残っています。あなたの現場では、テクニカルコミュニケーターとしての3DCGデザイナーと生成AIの関係を、これからどのように設計していきたいと感じていますか?

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