みんなが使えんと、あきまへん

テクニカルライターフォーラム2010『みんなが使えんと、あきまへん〜満足できるトリセツの実現を〜』参加リポート。

【主催】
財団法人関西情報・産業活性化センター
テクニカルライターの会

講演1:「使いやすさを科学する、〜パナソニック電工のUDへの取り組み〜」

<内容>
パナソニック電工のUDの取り組みを、「使いやすさの科学的追及」という切り口で紹介。
<講師>
パナソニック電工解析センター株式会社 ユーザビリティ事業部 部長 小川哲史 氏

ユニバーサルデザイン(UD)への取り組み紹介に加え、受講者に疑似体験装具を装着して貰い『白内障』や『方マヒ高齢者』、『妊婦』などの体験を通じてUD商品とUD取説を融合させる事にも目を向けるべきではないかと言う投げかけであろうと認識した。 尤もな話である。 こう言った講演には事業部のお偉い方も含めて現場の方に多く参加して欲しいと思った。 懇親会で氏とお話していると製品とブランドイメージに並々ならぬ熱い思いを感じた。こう言った方たちとタッグを組み、事業部へ働きかけを続けて行くことで『脱補材』を目指したい。UD製品とUD取説の融合がブランディングにおいて有力である事に疑いの余地は無い。既に死語となりつつある『User Experience』の概念を再認識し、商品やサービス(トリセツ)を通じて『心の琴線に触れるような思い出に残る体験』を提供する事に寄与したい。

講演2:「見やすい取説の功罪、〜視覚障害者の立場から〜」

<内容>
視覚障害の人の取説の苦労について、視覚障害当事者の立場から、あるいは視覚障害者向けの取説を提供する施設の立場から、使いやすい取説のヒントを紹介。
<講師>
日本ライトハウス 情報文化センター サービス部 岡田 弥 氏、竹田幸代 氏

健常者にはイメージすら難しい事だが視覚障害や視野障害、色覚障害といった障害を持つ人の生活は危険と隣り合わせである。真っ直ぐな道路標識や白線が歪んで見えたり、色の区別がつかない、視野が狭く周りが見えない、などは日常生活の中で沢山の製品を取り扱う上でも数々の障害と危険にさらされている。 先のUDにも抵触するテーマだが、UDフォントが開発されたのもこの講演のテーマが切っ掛けとなっているのだろう。 少し意識をして工夫すれば視覚障害を持っているユーザにも分かりやすいマニュアルに近づくのだと考える。講演の中で竹田氏は「視覚障害の人ほど取説を見るんです」を話していた。であればメーカーと制作会社は、その部分へもフォーカスしたトリセツ作りを行うべきではないだろうか。 視覚障害者の者の見え方をスライドで見せて頂いた時は愕然として、正常に見える事へ感謝すると共に、今まで培ったノウハウを活かしたドキュメント作りをしたいと考えた。 スクリーンリーダーを使って文書を読むと言う取り組みを行っているとの事だったので、リードエラーが出にくい構成とレイアウトも心掛ける必要が有る。 製品へ貼りつける注意ラベルに点字を加工したり、視覚異常者向けへ別途データを用意するなども検討すべきでは?と思ったが予算有りきの体質では実現が厳しいのか・・・一部、操作ボタンに点字が施してある製品を見るが、もっともっと普及して欲しいと思う。

講演3:「分かりやすいトリセツ作り5つのポイント、〜認知心理学から考える〜」

<内容>
分かりやすいトリセツ作り」において、認知心理学の立場から、「情報の交通整理をする―作業記憶の性質」他、合計5つのチェックポイントを提案 します。
<講師>
信州大学 教育学部 准教授 島田英昭

認知心理学とは、人々がどのように様々な事物や人物を知覚し、認識しているのかと言う事を探求していく学問です。 参照サイト:日本認知心理学会
学問的観点から分かりやすいトリセツ作りに切り込んだ講演だった。 マジカルナンバー4:説明する時は4点までにグルーピングすると記憶に残りやすい。マジカルナンバー7:一度(10秒ほど)に記憶できる文字数は7±2くらいである。というのはなるほど納得であった。情報の構造化、適切な見出しやタイトル付けなどは普段のマニュアル作成で実践しているが、おぼろげに理解しているつもりの知識が、キッチリと裏付けの有る解説を受けると霧が晴れたように色んな事が結びついていくのが不思議だった。平仮名の“お”を早く沢山書いていると、途中で“む”や“あ”と書いてしまうなどのユニークな認知体験などを織り交ぜながら楽しい講義を受ける事が出来た。以前から取説と認知心理学は深い結びつきが有ると考えていたので終始興味深く聴講させて頂いた。

パネルディスカッション:「満足できるトリセツの実現に向けて」

<パネラー>
関西大学 文学部教授 比留間 太白 氏及び上記4名の講師の方

比留間教授の進行でテーマに沿ってディスカッションが進められた。教授自身の体験による液晶モニターの組み立て時の「指詰め事件」の元となった注意シートについて、どうあるべきか?を講師の竹田氏を中心にして満足度の高いトリセツ作りに各パネラーから貴重な意見が交わされた。

今回講演会を聴講するに至った理由は、現在の景気低迷によるメーカーの予算削減に巻き込まれぬよう、差別化を図る事が私自身に課せられた使命である事の自覚によるものである。 素材を貰って言われた通りのものを納めるだけなら何処の制作会社だって出来るわけです。この景気ですから仕事はコストが低い方へ流れる可能性が高く、事実厳しいコストスパイラルに船首が向きつつある昨今。 今のスピードとクォリティーを維持しつつ付加価値の高い仕事をする為にはユーザー、メーカーの視点を理解した上で、制作会社としての視野を広める必要が有る。 そう言った思いが今回の聴講へ動いたのだと思う。 懇親会でもメーカーの方と熱く語る事が出来、有意義な時間が過ごせた。中でもパナソニック電工の小川氏との出会いは、現在進行中の同社の製品取説を制作中だったので私の中ではかなり衝撃的であった。 財団法人関西情報・産業活性化センター並びにテクニカルライターの会運営委員の皆さま、大変ありがとうございます。お疲れさまでした。 並びに各方面へご紹介くださった有限会社キートンの湯川氏へ多謝_。(話の大半が取説に及んだため氏が私的に運営する現説公開サイトや考古学についてお話を伺えなかったのが残念である。)

2010年2月24日

株式会社テクノアート 企画営業部

川内カツシ